あひるの仔に天使の羽根を
「せり。首のネックレスを解け。それを言霊に転写して護石とする」
訳が判らぬまま、首から外して手渡せば、
「血染め石はどうした!!?」
あたしは首を振った。
「ないのかよ…本当に使えない奴ばかりだな。仕方が無い、この数だけはある黒尖晶石(ブラックスピネル)を破邪の護りとして、金緑石に投射するか。布陣を描くのは……よし、手頃なのがある」
ぶつぶつと何かを言いながら、久遠は桜ちゃんが切り捨てた長髪を拾ってくると、まるでそれを筆のようにして血という墨をたっぷりつけ、床に何やら円形の模様を描いていく。
何故か――見覚えある布陣。
だけど何処で目にしたのか思い出せない。
「せり、黒尖晶石を外円に並べて置け」
久遠の指示に従い、あたしは煌に心で謝りながら、ネックレスを引きちぎり、ばらけた黒い粒を鮮血の線の上に置いていく。
そして中央に横たえられた桜ちゃん。
心臓の位置には、玲くんから貰った金緑石。
「せめて…金緑石だけでもあってよかったよ」
そして久遠は、奇妙な模様が描かれたその布陣の前で、手の平を向けた。
久遠が紫色に発光していく。
まるで紫堂の力を見ているようだ。
「ひふみよ・いむなや・ことも・ちろらね・しきる・ゆゐつ・わぬそを・たはくめか・うおゑに・さりへて・のます・あせえほれけ」
不可解な言葉に共鳴したかのように、場の空気が不自然な震動を見せた。
まるで音叉(おんさ)のように、密室に久遠の言葉が跳ね返り鳴り響いて、拡がりを見せる。
「!!!」
桜ちゃん下の布陣も徐々に紫色に光り始めた。
「ひ・ふ・み・よ・い・む・な・や・ここ・たり・ふるべ・ゆらゆらとふるべ」
久遠の言葉が、それを紡ぐと――
それまで微かに発光するだけだった布陣は、大量の紫色の光を放出した。