あひるの仔に天使の羽根を
そして。
「……帰還せよ!!」
久遠の命令と共に……
「ん……」
桜ちゃんが苦しげな声を放ち、
「……もう大丈夫だ」
表情1つ変えない久遠が、つかつかと桜ちゃんに近寄り、突き刺さったままのナイフを引き抜いた。
桜ちゃんの苦しげな悲鳴。
「く、久遠……桜ちゃん声上げてるじゃない!!!」
「せ、せり……首締めるな…、気付だ気付!!!」
確かに――
桜ちゃんの顔は、痛みでしっかりとしてきた気はするけれど。
「だけど大量出血してる、早く何とかしてよ!!」
「何とかって……それくらいせりがやれよ」
信じられないことをのたまった。
「はあ!? 薬もない包帯もない中、あたしが何が出来るって!!? 今みたいな変な力で出血止めてよ!!!」
「だから!!! せりの力で止めろって!!」
「あんたの目は節穴!!? あたしの何処に力があるって!!?」
「え、ええ!? だってせり……妹だろ!!?」
「は!? 誰があんたの妹よ!!!」
「いやそうじゃなく……うわあ、参ったな……」
久遠は珍しく狼狽えた表情をして、頭を抱えた。
「オレは、せりが出来ると思って、引き抜いたのに……」
そうしている間も、桜ちゃんのお腹からは血がどくどく……。