あひるの仔に天使の羽根を
「え、え???」
「よかった……芹霞…良かった…」
玲くんの熱い吐息で、あたしの耳はぐだくだだけど。
本当に心配してくれていたということは判って、じんとした。
見れば、透明な硝子の一部が開いていて。
「助けに来てくれたのは、桜ちゃんだけじゃなかったんだね?」
「オレも来てるのにさ……」
ふて腐れたような久遠の声は無視しておこう。
「ごめんね芹霞、すぐ来れなくて。本当にごめん…。恐い思いさせてしまって、本当にごめん…」
まるで背後霊のようにしがみついて離れない玲くん。
激しい自責の念に囚われているらしく、あたしは何とか身体の向きを変えて、項垂れ気味の鳶色の髪を撫でて、
「あたしは大丈夫だから。来てくれてありがとう玲……」
そして、もう1つ人影があったのに気づく。
憂いの含んだ切れ長の目。
漆黒色の――
「芹霞……」
ほっとしたような顔の櫂が差し伸べた手。
それは過去と変わらない櫂の仕草。
おいで、おいでとあたしを誘う。
あたしは――
「櫂もありがとう」
その手は取らなかった。