あひるの仔に天使の羽根を
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あの時。


煌が"チビ陽斗"と呼んでいた、司狼という名前の男が僕達に向かってきた時。


僕と櫂は臨戦態勢に入った。


司狼は唯の子供じゃない。


妙に戦い慣れていて…戦闘をまるで遊戯のように捉え、悦びを感じている。


現実(リアル)を仮想世界(ゲーム)として楽しめれるのは、自らが舐め取る血の味の中毒(ジャンキー)になっているからで。


僕は2ヶ月前相対した…8年前に消えたはずの殺戮集団、制裁者(アリス)を思い出す。


瞳の色こそ違えど、戦いに…血に対する渇望は同じだ。


司狼が榊と呼んだ…桜を診たという従医は、腕組みをしたまま傍観者に徹していた。


僕は感じる。


あの男こそ、司狼と比較にならぬ程の技量の持ち主。


隠し立てできない威圧感が判るから。


僕と櫂とで司狼を相手にしても、司狼をねじ伏せられないのに、あの男まで出てきたらどうなるのか。


横では芹霞と桜が危機に瀕しているというのに。


焦りだけが僕を苛んでいく。



「――…くっ!!!」



骨と骨、肉と肉がぶつかり合う音。



「榊さ~ん、いいの~? 僕貰っちゃっていいの?」


司狼は僕と櫂が突き出す拳をひょいひょいとよけながら、暢気な声を上げて。


「どうぞどうぞ。ただ残しておいて下さいね。残り物には福があるといいますし」


榊はアーモンド形の目を笑いの形に変えながら、ひらひらと手を振った。


櫂の顔にも焦りの色が出ているのが判る。


しかも。


地形が変わっているのか、両足にかかる重さは半端ではなく。


耳鳴りと眩暈、そして息苦しさ。


「あれー、まだ慣れてないんだ。病人って耐久力ないねえ…?」


"病人"


その言葉が僕の神経を逆撫でする。





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