あひるの仔に天使の羽根を
櫂の顔つきが変わる。
「随分と見くびられているようですよ、司狼くん。1人で足止めできるみたいです。しかも…教祖直々のこの設備を抜けて、助けに行く気満々の『気高き獅子』は…なんて貪欲。これはもう、断罪の対象ですよね?」
「本当にね。"断罪の執行人"に報告しないとね。て、まあ。あの人も狙っているだろうけれどね、こんなに罪深い"男"達をいつまでものさばらせておけないもの」
わざとらしいくらいほのぼのとした雰囲気は、僕達を馬鹿にしていることらい僕にだって判る。
だから僕は――
手に電磁波の力を纏い……
「え!!?」
手から力が抜けていく。
紫堂の力が……使えない?
由香ちゃんの助力がなくなってしまったのか。
だとしたら。
僕は拳に力を入れて、足を踏み出す。
思い出せ。
かつての紅皇の手解きを。
僕の身体の動きは、全盛期(ピーク)よりは衰えてしまったけれど。
だけど、芹霞を守る力くらいはあるはずだ。
僕の命に代えても、絶対芹霞を救う突破口を開いてやる。
想いで身体の限界を突破してやる。
そして僕の身体は白く発光する。
「玲…お前…!?」
櫂がどう思おうと構わない。
力の足りなさに足掻く僕を笑いたいなら笑え。
芹霞を守る騎士はお前じゃない。
繰り出した拳は――
「無駄に命を散らすな、玲。
――馬鹿者めが」
吸い込まれそうな神秘的な黒い瞳。
意識を切り裂く、緋色の唇。
艶やかな――
赤1色に染まった大輪の華。
僕の師である――
紅皇の隻腕に受け止められた。