あひるの仔に天使の羽根を


「緋狭……さん?」



櫂の驚愕の声。



どうして此処に…そんな疑問を口にする時間を与えずして、



「遅くなった。ここは私に任せろ」



そして緋狭さんは、ひょいと…それは軽い仕草で司狼の胸倉掴んで反転させると、いとも簡単にその身体を床に打ち付け、背中を足で踏み潰す。



「お前の嫌う"女"に踏みつけられた気分はどうだ、ぼうや?

どうだ……懐かしかろう?」



それは圧倒的な力の差で。



「随分と、私の妹を可愛がってくれたじゃないか。

おまけに長い間、小賢しい偽情報(フェイク)で攪乱して、唯でさえ貧乏暇なしの私の手を煩わしてくれたようで。

これはもう、感謝の念を力で示すしかないな」



ぐぐっと、緋狭さんの足が容赦なく沈む。


司狼は仰け反るようにして、四肢をばたばたさせた。



「離せ、離せ!!! そんなことしても、お姉さんの処に続く出入り口は……」



――しゅんッ。



突如何かが空を切る音。



身を屈めた緋狭さんが、司狼の首から十字架部分を引き千切り、それを黒い壁に向けて投げた音だと知る。



十字架は――


迷いなく、まっすぐに何かの小さな穴に嵌ったようで。



――しゅんッ。



ロザリオの鎖部分が立て続けに投げられ、それは十字架にひっかかり、十字架はその重さと勢いでぐるりと回転した。



がちゃりとした音。



開いた。



芹霞に繋がる道が!!!


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