あひるの仔に天使の羽根を
「これでも、まだ喚くか?」
勝ち誇ったような艶やかな声に、司狼はもう何も口にすることなく、その顔を悔しさに歪めさせているだけで。
「あちらの部屋は、酸素がもう無くなっている頃ですが?」
にこやかな顔をして、音もなく榊が近寄れば、
「手を打たない私だと?」
緋狭さんは艶然と笑って、剣呑な相手を平然と迎え入れ。
「ははは。用意周到、流石は紅皇」
緋狭さんの『紅皇』の位置づけが、此処でも有効なのか。
それでも――判る。
「では…父と子と精霊との御名において。
此処は引きましょう」
此の場の勝者は緋狭さん唯1人。
胸の前で十字を切った榊は、愉快そうに笑う。
この男が何を考えているのかはわからないけれど。
「さあ――行け。
妹の元へ――」
僕は櫂と共に、隣の部屋に入った。
愛しい女性の居る場所へ――。