あひるの仔に天使の羽根を
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紫堂の力の喪失は一時的なものですんだらしい。
手に戻った電気の力。
由香ちゃん、頑張ってくれているんだ。
しかし僕の力は至る処に分散されていて、桜だけを集中治療が出来る状態ではなく、もしも僕が由香ちゃんの使用する機械への電力供給を止めれば、紫堂の力は失われ、全てが水の泡だ。
こんな微々たる力では、桜の血を止めるだけで精一杯で。
櫂も力を貸してくれたけれど、櫂の心はかなり乱れすぎて、うまく集中できず苦悶の表情を浮かべていた。
それ程までに、櫂の心の傷は大きく、そして桜の傷は致命傷だった。
そんな時ふっと現れた緋狭さんが、桜の小さな身体を肩に担ぎ、
「桜のことは安心しろ。傷を癒してから返す」
それだけ言うと、姿を消してしまう。
まさに神出鬼没の僕達の師は、いつの時でもその気配を誰にも悟られずに、そしてその真情すら隠蔽したまま、何処かに消え去った。
僕の胸の中で意識を失ったままのその妹は。
僕が離れないよう、服を掴んだまま。
それを忌々しげに見ながら、何も喋らない櫂。
そんな僕達を瑠璃色の瞳で傍観する久遠。
久遠は――
体術だけではなく布陣術をも使えるらしい。
桜の置かれていた状況からいって、布陣を描いたのは久遠しかない。
僕が此の部屋に赴いた時、芹霞と久遠は口喧嘩をしていて。
芹霞の口振りでは、桜に"措置"を施したのは久遠であるけれど、故意的か否か回復が出来ないらしく。
各務家は、紫堂の縁者である神崎家と繋がりがあるのなら、何らかの力があるということは想定内であったけれど、その実力の程は未知数で、大体何故彼が此処にいるかも僕には判らず、そして芹霞と…慣れ親しんだ会話も腑に落ちなかった。