あひるの仔に天使の羽根を
建物に来る時にはあんなに妨害があったのに、帰る時は呆気なく思う程、妨害がなかった。
司狼も榊も……姿を消し、建物の中は静まり返っていた。
ただ建物の外で打ち捨てられている敵の数は、僕と櫂が相手にした時よりも遙かに多く。
辺りの凄まじい破壊ぶりを見れば、僕達以上の存在が力を奮ったことが窺える。
破壊の跡は、わざとらしいくらいに各務家に繋がっている。
緋狭さんなら、こうした痕跡は残さない。
あの青い男に違いない。
その姿を思い浮かべれば、自然と嘆息が出る。
各務から出てきたのか、それとも向かっているものかは判らないけれど。
今でなくとも、相対する場面が来ることはきっと必然。
あの男なら、緋狭さんと同じく……破綻に陥る程醜悪な…僕達の関係を見越していることだろう。
だからこそ、緋狭さんは来たのだから。
それでも特に助言もなく。
だということは、緋狭さんもそれを覚悟しているということか?
それが僕達の未来だということか?
建物の外は暗闇だった。
本当はもっとこの奇妙な建物を調査したかったけれど、僕の手に居る芹霞を少しでも長くきちんと横にならせたくて。
彼女の体力を回復しないといけない。
夜が――
始まったから。