あひるの仔に天使の羽根を

・欠片 煌Side

 煌Side
******************


桜を芹霞の元に行かせるのは、正直迷いがあった。


俺が行きたい。

俺が守りたい。

芹霞の顔が見たい。

芹霞を抱き締めたい。



――ごめん、煌……。



今も尚切ねえくらい想いは膨らむけれど、あの時の多大なる大打撃を怖れるあまり、こんなにも芹霞に会いたい半面、芹霞に会うのが無性に怖かった。


しかもあんな醜態晒して、今更どんな面して会ったらいいよ?


情けねえ。


やっぱ俺はヘタレすぎる。


募る恋情に、手も足も出なくなっちまうなんて。


そう思うけれども。


それでも会いたい、抱き締めたい。


他の男に指1本芹霞を触らせたくない。


俺だけが迎えに行きたい。



矛盾しても募る心が――

桜の姿とだぶってしまった。



理性を超えた、"男"の本能。


こだわりを捨てた、剥き出しの情。



桜の真情を知った時。



「おいおい、何でこいつまで参戦すんだよ」とか気が重くなったけれど、不思議とそんなに驚いたわけではなかった。


それ処か、こいつも人間だったんだなって妙に感心しちまう程で。


だけど。


桜がそれに触れて欲しくなさそうだったから、それについての言及はやめた。


したところで何が変わるわけでもねえし、癇癪持ちの桜の思えば、そこに俺が踏み込むことは耐えがたき屈辱だろうから。


俺に知られただけで、ここまで暴れるもんな。



ずっとずっと傍観者でいた桜は、どんな思いであの時……玲と芹霞、そして俺を見ていたんだろう。


櫂に対して何を思ったのだろう。



――皆辛いんだ…。



お前も辛いんだな、桜。


無感情で非情で生きたお前が、血相変えて芹霞に元に走るくらいだものな。


なら、此の場はお前に託す。


本当は本当は。


俺が行きたかったけれど。


行きたくて行きたくて仕方が無いけれど。


今のお前なら、絶対芹霞を救えると思うから。


同じ愛を抱える故に、俺は自信持って断言できるから。

< 915 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop