あひるの仔に天使の羽根を
こんな男に最高権力与えて、絶対日本の行く末真っ暗だ…と思いきや、この男のおかげで紫堂財閥の処遇はよくなり、元老院の暴走は収まっているらしく(玲談)、それはきっと犬猿の仲のように見せるくせ実は仲のいい緋狭姉の力によるものも関係しているのかもしんねえ(桜談)。
緋狭姉は、唯一氷皇に"手"を使わせるまでの、神のような最強女だから。
逆に言えば、緋狭姉と対等に戦えるのは、氷皇だけだ。
未だこの男と緋狭姉が、何企んで今の立ち位置にいるのか知らねえけど、2人の考えることは櫂の頭脳より遥かに勝る(櫂談)。
とにかく氷皇の考えは俺なんか推し量ることが出来ねえもので、大体青づくめでへらへら笑って、人を虚仮にすることだけが生き甲斐のような……そんな存在自体、どう譲歩して考えても"胡散臭すぎる"だろ(芹霞談)。
それでもこの男に"偶然"はなく、動きの1つ1つに意味があるのは俺でも判る。
冷酷非情で機知にとんだこの男のおかげで、制裁者(アリス)は立派な殺戮集団に育っていたのだから、本当に脱帽ものだ。
「どんな魂胆かは知らねえけど、玲を助けてくれたのだけは礼を言っておく」
一応それだけは忘れず言っておけば、氷皇は暫し瞬きをしてからまた嘘臭い笑い方をして。
「いや~、アカが可愛がるのが判るよ~。アカが俺のお義姉さんになったら、君をアカから譲り受けてペットとして末永く可愛がってあげるよ、あははは~」
「いらねーよ!!! つーより、お前が何で緋狭姉を"お義姉さん"って呼ぶんだよ!!! いやいや、そんなことより俺は緋狭姉のペットじゃねえしッ!!!」
もう突っ込み所満載だ。
何に対して怒っていいのか判らねえ。
「んー、でもさ~、君失職しちゃうでしょ。『気高き獅子』に捨てられて。それとも、レイクンに仕えるの?」
藍色の瞳が、ぞくりとするくらい冷たい光を放つ。
「……俺の主は、櫂だけだッ!!!」
そうぶっきら棒に言い捨てれば、
「ふうん、じゃあ承認なんだ。今夜のこと」
――今夜、玲様は……。
俺は横を向いて唇を噛み締めた。