あひるの仔に天使の羽根を
俺の矜持はズタボロで。


たかが、スケスケ如きに。


緋狭姉が投下した、スケスケ如きに。


『スッケスケ~♪

スッケスケ~♪』


月とまだ執拗に歌いやがる遠坂の目は、三日月形だ。



「…………くそッ!!!」



俺は外に出た。



景色はこんなに眩しいのに、俺の心は一向に晴れねえ。


俺、芹霞に"漢(オトコ)"見せてえのによ、何だか空回り。


店でもあれば、何か買って芹霞の機嫌取れるのに、


ここにはこの古臭い小屋のようなあの家以外は何にもねえ。


見事なくらい、何にもねえ。


"約束の地(カナン)"って、住人居ねえのかよ?


招待券貰ったからには、もっと人が居ていいはずなのに、


いるのは天使だという悪魔の月と、双子の旭。


子供だけでここに住んでいるのかよ?


考えてみれば、奇妙なことだらけだ。


玲は、ここは"約束の地(カナン)"の僻地だと言っていた。


多分、先に旭に聞いていたんだろう。


僻地なら、中心部に抜けるのは何処からだ?


前方には海岸線。


後方には……鬱蒼とした森。


光り輝く海原と、対照的な色を持つ闇の森。


何かが待ち構えていそうなその場所に、


「上等じゃねえか」


俺はストレスの捌け口を求めた。


身体を動かせば、気分が幾らか落ち着くかも知れねえ。


そう思い、森に足を運んだ。
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