あひるの仔に天使の羽根を


ずん。


俺は沈み込んだ。


俺はもう溜息しか出なくて、恨めしげに楽しそうな氷皇を睨んで、建物の中に入ろうと背を向け、歩き出した。


「あれ~、どうしたの『暁の狂犬』。『暗闇の駄犬』になってるよ、あはは~」


ウザい。


「あれ~、いいの~? 君ここの門番してたんでしょ? 建物の中に入っていいの~? 任務放棄しちゃうの~? ねえねえ」


黙れ!!!


しかし俺の後をぴったりとくっついてくるその執拗さに、俺の無視も限界だ。


「外の敵は殆どお前がやっつけだろうが!!!」


もう俺の出番はないの、一目瞭然なの判っていて。


「うんうん、俺のおかげだよね? 全部俺のおかげだよね?」


結局それが言いたいだけだ、こいつ。


俺の未熟さと氷皇の凄さを再認識させて喜ぶふてえ奴。


本当にもうどっか行けよ!!!


そう怒鳴ろうとした時、突然氷皇の目がきらりと光り、俺は氷皇に引っ張られるようにして、階段の下に連れ込まれた。


氷皇の目は、薄く開いている隣のドアを覗いていた。


こんなトコにあったのが今初めて気づいたくらいの、壁と同化しすぎているドア。誰かが完全に閉めきるのを忘れたのか。


俺も覗き込むと、どうやら地下へ続く階段があるようで。


1人勝手に行けばいいものの、何故か氷皇は俺を引き摺り込んで、階段を下り始めた。


藍色の瞳は依然鋭いけれど、整った顔には薄笑いが浮かんでいる。


きっとこいつには恐いものなんか何もねえ。


得体の知らねえものへの遭遇の期待に、心躍らせてやがる。


そして同時に。


どんなものをも撥ね付ける、圧倒的な圧というものが半端じゃねえ。


五皇の赤服を着用した際の、きりりとした緋狭姉と似ているんだ。


勿論、俺なんか真似できるもんじゃねえ。

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