あひるの仔に天使の羽根を
――――――――――――――――――――――――――――……

芹霞を腕に抱いた玲が帰ってきたのは、それから間もなくのことだった。


俺は敵の来襲に備えて見廻りしながら、部屋に居る遠坂の雄叫びを聞いていたりしていたが、其処に現れた玲は強ばった顔をして俺を見た。


意志的に強く輝く鳶色の瞳。

そこには多少の躊躇いはあるものの、信念のような強い一途さがあって。


「煌。由香ちゃん、イクミ。

朝まで――…

この部屋には来ないで貰いたい。

芹霞と僕を…2人きりにして欲しい」



――玲様は今夜……。



「……頼む」


玲が俺を見て、頭を下げた。


玲が俺に頭を下げるのは、初めてのことだった。


「……皆無事だったのか?」


俺はそんな玲を見ることが出来なくて。


力一杯握った拳をふるふると震わすだけで。


「…ああ。ただ桜は負傷して、緋狭さんに預けてる」


「そう……か」


負傷したのは心配だけれど、緋狭姉がいるなら安心だ。


「芹霞…またぶっ倒れたんだな」


「……ああ。怪我はないが…櫂に恐怖している」


「何故……?」


「判らない。だけど、事態は確実に悪くなってる」


そして暫く沈黙が続いて。


「煌。僕は……」


決意めいて口を開いた玲に、



「知ってる。桜から聞いた」



――玲様は今夜芹霞さんを……。


俺はそう言うしか出来なくて。

< 923 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop