あひるの仔に天使の羽根を
「あ、そういえば…水に浮かんでた本……」
するとそれはその人の手の中にあって。
「シショクキョウテンギは無事だったよ。だけどまさかアサヒが持ち出していたとはね、お兄様が知ったら大目玉ものだよ?」
――オニイサマ?
何だか判らない単語だったけれど、天使は急に泣き出した。
「ごめんなさい、ごめんなさい……セツナ様。お願いですから、クオン様には言いつけないで……」
――セツナ? クオン?
がたがた震える天使を片手に抱き、
「お兄様には黙っててあげる」
その人は優しげに微笑むと、やがてこちらを振り返って言った。
「君、名前は?」
天使もこちらをじっとみるから、少し照れた心地で名乗ってみる。
「ああ、君が"お客様"なんだね。
こんな山深い田舎にわざわざようこそ。
オレはカガミセツナ。
よろしくね、"せり"」
――セリ。
その綺麗な微笑に、心臓を掴まれた気がした。
初めて耳にするその呼称は、特別な響きがあって。
彼だけにずっとそう呼び続けて貰いたいと、
切に願ってしまった。