あひるの仔に天使の羽根を

・天使

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煌が憤って部屋から出て行ってから暫く時が経つ。


こうも帰ってこないと、さすがに心配になってくる。


あいつは櫂同様に十分強いから、仮に水中で見た時のような…変な化け物が出たとしても、そう簡単に殺られはしないだろう。


だけど、やはり傷ついた姿を見たくはないわけで。


「……」


煌に怒ったあたしは悪くはないと思う。


確かに。


煌がどんな性癖を持って、如何にスケスケ好きであろうとも。


香水女相手に、どんな性生活を満喫しようとも。


煌はあたしとは違う性別の、思春期の"男"であって。


頭では判っているつもりだったけれど、実際の違いを目の当たりにしたら、何とも腹立たしく。


今までそれを感じずにいたのは、あたしは煌の表面しか理解していなかったからかなどと、変に落ち込みたくもなってくる。


だがそれ以上に。


仮にも同じ家で共に育った幼馴染の(不可抗力的な)下着をくすねて、こんな純真な天使に"スケスケ"なんて教えて渡すその神経。


……しかも優しい玲くんに向かって"ナマ乳"なんて何たる暴言!


婦女子がいる前で!


煌のデリカシーのなさが信じられない。


そう思うも――


やはり煌が帰ってこないのは心配で。


何とも複雑なまま腕時計を見たけれど、時計は狂っておかしな方向に回転し続けている。


経過時間さえ判らない。


玲くんが苦笑した。


「海とこの家しかない中で、こんなに帰ってこないのはふて寝でもしているのか。

まさか……行ってないよな、"無知の森(アグノイア)"に」

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