あひるの仔に天使の羽根を


――あたししか出来ない必殺技、持っているんだからッ!!


断片的に何かの記憶が蘇る。


――藤姫さえも欲しがる、その大きな力でさ。


これは……芹霞の声?


2ヶ月前。

藤姫と相対した場所に確かに芹霞は居た。


藤姫の魔方陣の部屋を開ける石の扉は、俺の闇の力で開けた。


それと同じ石の扉を"約束の地(カナン)"で俺は開けることが出来たのは、2ヶ月前の記憶と今が連携(リンク)していたから。


それなのに、芹霞の言葉で情景が蘇らないのは何故だ?


なぜ細かい記憶がない?


何故――

"幼馴染"以外の記憶がない?


――やっぱり――あったんだ……石。


石……?


俺は目を細めながら、手にした血染め石を握る。


知らぬ間に、芹霞の手にあった俺の闇石。


何だろう、この切なさ。

何だろう、この苦しさ。


気づけば俺の目からは涙が零れていて。



――永遠に――大……好…き……。



記憶にない声が蘇るのが、もどかしすぎて。


判らない。


何も思い出せない。


だけど心は喘いでいる。


何かの烈しい苦痛に喘いでいる。


思い出せと氾濫する心があるのに、思い出せなくて。


何を――?
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