あひるの仔に天使の羽根を
「――…くっそ!!!」
思わず床に拳を叩き付けた時、視界に何かが跳ねた。
見ると沢山の人形が散乱している。
しかも何だ、腹が割かれている?
その異様さが気になって手に取れば…。
「な!!!」
そこにあるのは、防腐処理が施された人間の一部。
あれもこれも…可愛らしい顔つきの人形の中にあるのは"残虐"の名残。
そして壁にある小さな穴は。
「監視カメラ?」
須臾は見張られていたのか?
しかし自由に出られる彼女に、それはそぐわず。
外界の闊歩を容認されているのなら、室外では監視機械相応の何かの目があったということか?
ではこの人形の意味は何だ?
人形にこんなモノを隠しておいて、それを見張る意味は?
両者の結びつきに無理を感じた。
須臾の反応を見たいのなら、隠す必要がない。
見張りの目的が"異物"だとしたら、こんな処で監視してまで置く必要がない。
隠蔽すべき異物と須臾が関係あるのだとしたら、導き出される結論は1つ。
つまり。
人形は――
他力的な圧によるものではなく、
主自らの意思ではないか、と。
常に自分の近くに並べて、だからこその"愛玩"に。
須臾が愛を感じていたのは、人形ではなく、その腹の中の異物なのか?
監視カメラは、そんな須臾を見張るため?
俺の中での須臾の像が崩れていく。
俺の知らぬ須臾が、疑念を拡げて散っていく。
薄らげば、押し殺した情が姿を明確にして。
何処までも最低な俺。
須臾に対する情が薄まった途端にそれか?
今まで。
あんなに愛していた須臾なのに。
自分でも淡々と思える、須臾への薄情さは何故?
須臾という存在が懐疑的になったのが理由だとは思えない。
何故こんなにも芹霞を想う?
芹霞は玲のものだろう?
どうして諦めきれない?
蘇るのは、玲の腕に抱かれていた先程までの芹霞の姿。
今――玲と共に居るのか?
玲は本当に今夜芹霞を――