あひるの仔に天使の羽根を
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芹霞の部屋の前に、煌が居た。
ドアにもたれ掛って、深く項垂れながら胡座を掻いている。
その様は凄惨な程に痛々しく。
俺が足を止めると同時に、煌の身体がぴくっと反応して、けだるげな顔が向けられた。
「何の……用だよ」
精悍な顔には生気も色も無く、酷く憔悴している。
「芹霞に……会いに来て…。最後だから…謝りたくて」
ひりついた喉奥から出たのは、歯切れ悪い言葉。
煌は苛立ったような細い目を寄越した。
「芹霞? ああ? お前のおかげで玲と朝まで出てこねえよ!!!」
俺は眼を見開いてドアを見た。
「そんな目して今更何だ!? どの面下げてここにいんだよ。お前は俺達や芹霞を捨てて須臾を選んだくせに、未練がましくのこのこ出てくるなよ!!!」
その言葉は、あまりにも辛辣すぎて。
怒りを見せる褐色の瞳に、何も言い返すことは出来なかった。
「お前がな…お前が!!! 全て壊したんじゃねえかよ!!! 壊してまで、そんなにあんな女が欲しいのかよ!!!? 俺達を切り捨てるまで、あの女に価値があんのかよ!!?」
煌は俺の胸倉を掴んで、烈しい威嚇の姿勢を取る。
ぎらぎらに光る眼差しには、いつもの穏やかさは何もなく。
――お前は、俺の憧れなんだ。
あるのは怒り、のみ。
「煌……悪かった。好きなようにしろ」
どう謝っても償いきれるものではないけれど。
せめて煌にだけでも、殴られたいと思った。
再起不能になってもいい。
できることなら。
此処で殺して、解放して欲しい。
もう――苦しくて溜まらない。