あひるの仔に天使の羽根を
 

しかし煌は俺を乱暴に床に打ち捨てて。


「1人だけ楽にならせて溜まるかよ!!!」


そんな時だ。


芹霞の部屋のドアノブがかちゃかちゃと忙しい音をたてたのは。


鍵がかけられている?


え!?


鍵穴は……外側に在る。


その長い鍵は――何で煌のズボンの中にある?



「煌――

お前、何で施錠してんだよ!!!」



ドアが烈しく軋んだ音を立てている。


明らかに不自然すぎる、不穏な音。


ドアの向こうで……何が起きている?


どくん。



心臓がいやな音を立てた。


芹霞は――あのドアの反対側にいるのか?


逃げようとしている?


俺がドアに飛びつく前に、煌がドアを背に庇うように立ち塞いだ。



「お前……芹霞が好きなんだろう?

……何してんだよ、お前…判ってないのか」



俺の声が震えた。


「櫂。俺だって……。今……芹霞と玲がどんなことになってるか、芹霞がどんな目に遭ってるかくらい、十分過ぎる程よくよく判ってるよッッッ!!!」


煌が叫んだ時、ドアが蹴られる音がして。

続いて断続的にドアが叩かれる音がした。


『煌!!! お願い、鍵を開けて!!!』


芹霞の悲鳴が聞こえた。


俺は反射的に、ドアノブを思い切り回した。


やはり鍵がかかっている。


壊してやろうか、そう思った俺の手首を煌が掴んだ。


「煌……何してんだよ。

聞こえただろう、芹霞の叫びが」


しかし煌は唇を噛みしめ、俺の手を掴んだまま動こうとしない。


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