あひるの仔に天使の羽根を
 


鳶色の瞳が、すっと細くなる。


そして端麗な顔に浮かんだのは薄い笑い。


途端にあたしの背筋に寒いものが上ってくる。


れ、玲くん、怒っている!?


「ご…ごめん、ごめんなさいッ玲くんッ!!!

聞いていないあたしが馬鹿でしたッ!!」


それでも迫り来る、薄ら笑う美女の迫力にたじろぎ、ひいと声を上げて思わず傍にいた櫂の首筋に縋ると、更に玲くんの瞳は冷たく、細くなり。


冷淡な笑いに変わっていって――。


「――玲。芹霞だぞ?」


嗜(たし)なめるような、それでも威圧的にも思える低い櫂の声で、玲くんは我に返ったようにふっと表情を戻した。


こ、これが、煌のよく言う"えげつねえ"ものなんだろうか。


まだ心臓が、どっくんどっくんいっている。


怯えるあたしを見てとった玲くんは、ごめんと一言……そして端麗な顔をふっと横に背けた。


その孤独にも思える姿に切なくなり、思わず手を伸ばしたあたしだったが、


「にゃにしゅんにょ~!?」


何すんの、という言葉さえもろくに発音できないほど、櫂に両頬を横に伸ばされた。


あたしのその顔は、月ちゃんには大うけだったらしく、


「きゃはははは。"にゃにしゅんにょ~"?」


月ちゃんに跨れて馬になっていた由香ちゃんと、もう真似っこモードに入っている。


旭くんもお腹抱えて笑い転げ、


「やっぱりせりかさんって面白い。

こんなに笑ったの久しぶりかも。

ありがとうございます?」


褒められているのか、貶(けな)されているのか、判断つかぬ疑問系。


玲くんはあたしから顔を背けたままだから、反応は判らない。


櫂はいつも通りの、幾許か甘い眼差しで。


――でも笑っている、この男。


あたし、どんな顔してんのよ!?


確かに、昔からにらめっこでは負けたことは無いけれど。


昔から、櫂も笑い転げていたけれど。


櫂の――


あの時の純真な天使の笑顔は、今はない。


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