あひるの仔に天使の羽根を
 

俺は煌を押しのけドアに手を伸ばす。


こんなもの、外気功で吹っ飛ばしてやる。


だが煌は悲痛な顔をしたまま、凄まじい速度で俺の鳩尾に拳を入れた。


「駄目なんだよ…そんなんじゃ……。そんなんじゃまだまだ足りねえんだよ、櫂ッッ!!!」


続いて向けられた拳を、俺は弾いて逆に捻り上げる。


「煌、俺は行く」


「駄目だ!!!」


「お前が邪魔するのなら、お前を今此処で殴り殺してでも行く。芹霞を玲には任せられない。芹霞を力でものにする奴ではないと、信じていたのに!!!」


俺が睥睨した褐色の瞳は、何かを詰るように細められた。


「玲はな……玲は……!!! そこまでして賭けてんだよ!!!」


そう叫んで、煌は俺の足を払って自らの態勢を立て直して、再び堅固な意思をもってドアの前に立つ。


「櫂……戻ってこいよ……!!!」


煌は、俺の胸倉を掴んで叫んだ。


「お前じゃないと駄目なんだよ、俺も桜も……玲も…!!!」


俺は煌の哀哭に動けなくなって。


「何かの為に何かを犠牲にするなんて、全然お前らしくねえだろうが!!! 捨てるなよ!!! 諦めるなよ!!! 全て完璧に手に入れろよ、いつものような"貪欲"さ見せてみろよ!!!」


"貪欲"


どくん。


心臓の音と共に、身体の内部に何かが膨れ上がるのが感じる。



「お前が今まで心底求めていたのは、あの女じゃないだろうが!!! さっさと思い出せ、そしてさっさと玲を止めろ!!!」


俺が今まで

心底求めていたのは――


「ああくそっ!!! こんなこと俺の口からから言わせるなよ、畜生!!!

――櫂!!!」



俺の心は、何かの記憶に破裂寸前まで膨れあがっていて。



「お前にとっての"真実"は!!!

お前に"永遠"を与えることが出来るのは、

たった1人しかねえだろうが!!!」


その時。



「櫂――…ッッッ!!!」



芹霞が俺の名を呼ぶ声に、



――芹霞ちゃあああん!!!


膨張した心は――



――芹霞…好きだ。



一気に崩壊した。



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