あひるの仔に天使の羽根を

・残香 玲Side

 玲Side
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「もう――戻ったんだろ?」


僕の確信めいた問いに、


「――…ああ。

完全に全てを思い出した。


俺は――

須臾と此処には沈むつもりはない」


それは普段通りの――

悠然と…不敵に笑う『気高き獅子』。


もう、大丈夫だ。


それに僕は安心して息をつき…そして芹霞を見た。


吸い込まれそうな程、神秘的に輝く黒い瞳は。


乾ききらない涙で潤んで、怯懦に揺れて。


そうだろう。


僕は泣いて嫌がる芹霞を組み敷いた。


「――…っ」


言葉が出ない。


今更、何を言えばいいんだ?


芹霞の首筋には、僕が刻んだ罪の痕。


僕はぎゅっと目を瞑り、床に落ちていたシャツを手にとり身に付けると、ドアに向けて歩いた。


「玲、どこに行く?」


「散歩。鎮めてくる。男なら…判るだろう?」


櫂の問いに茶化すように、僕はそう笑って各務の家を出た。


気味悪いほどに、ひっそりとしていた。


暗闇の中、中庭の噴水の縁に腰掛ける。


空には月。


孤独に浮かぶ三日月。


それがとても侘びしくて…


酷く――


泣けてきた。



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