あひるの仔に天使の羽根を
「……お疲れ様」
突然横から掛けられた声。
あまりにも唐突で、吃驚しすぎて、半分飛び上がってしまった。
「ゆ、由香ちゃんいつからここに!!?」
「やだなあ、師匠。ボクはずっと此処にいたのにさ、師匠が気づかず悩ましげな溜息ばかりついてたんじゃないか。おかげでボク、声かけそびれたんだぞ?」
由香ちゃんの眉毛は、完全に八の字で。
奥からひょこっと顔を出して頭を垂らすイクミも似た表情で。
見られたのかもしれない。
僕の涙。
知らぬふりをしてくれるらしい。
その心遣いが僕にはありがたく、僕は少し声をたてて笑った。
由香ちゃんの膝にはパソコン。
そんな表情の間も忙しなく指は動き続けている。
僕が頼んだことではあるけれど、公的な部下ではないのに、無理難題を忠実にこなしてくれるのは有り難い。
彼女は厭世家にみえて、現世(の偏った部分)を満喫する…ある意味楽天家だし、飄々としていて粘着気質で…基本情に脆(もろ)いお人好しの性格なんだろう。
――うふふ。由香ちゃんは、きっと嬉しいんだね。"仲間"っていう友達が出来たのが。
彼女の好む世界は異色だけれど、あの桜が彼女と共の行動を嫌がらず、煌も気を許してるし、命を狙われた櫂でさえ…性格的に苦手部類に入るはずの彼女を許容していて。
――師匠、ボクね。神崎に出会えてよかったよ。毎日が楽しいんだ。
芹霞との出会いが、皆の運命を変えていく。
芹霞を中心にして世界が拡がっていく。
そして――
破綻する世界も確かにあるんだ。
僕のように――。