あひるの仔に天使の羽根を
「さて――と。
じゃあ俺達も桜を追い、煌を回収して、目的地に向かうか」
櫂があたしの頬から手を離し、ベッドから降り立った。
「行くかって、櫂動けるの?」
すらりとした長身の、均整のとれた体格。
仰ぎ見た端正な顔にある切れ長の目が、訝しげに細められた。
「……ということは、俺が着替えた記憶もないわけか」
「へ!?」
見ると――
「何そのふりふり~ッ!!!」
包帯だらけだった櫂は、中央にフリルのついた白いブラウスを着ていた。
「何だ~。神埼だけ無反応だと思ったら、見ていなかったのか~」
由香ちゃんが、月ちゃんの両脇をくすぐりながら、首だけこちらに向けて声をかけてきた。
月ちゃんは身を捩じらせ、白い翼をぱたぱたはためかせながら、きゃっきゃと笑い転げている。
「紫堂の服、血に染まってぼろぼろだし。そんなので歩き回るわけにもいかないから、
ボクの秘蔵コスキャリーから貸してあげたわけさ。中々にいいだろう、王子様ルック」
「いいというか、何というか――」
櫂の美貌にフリフリは、出来すぎのような一枚の絵。
孤高の――氷の貴公子という雰囲気がある。
一昔前の、外国の貴族だ。
でもこうした中性的(フェミニン)な装いは、櫂というよりはむしろ――
「本当は師匠用コスにと、それとあの女装と2つ用意してたんだけれど、
師匠なら如何にもって感じで面白くないだろ? まさか紫堂が着るとは予想してなかったけどさ~。
紫堂が着れそうな服ってそれしかなくて、後は師匠と取り替えっこしかなくてさ。"オスカル様"か"女装"かの二択で、紫堂が選んだのはそっち。
金髪クリクリの鬘(ウィッグ)もつけたのに、即却下だよ。ノリ悪~」
櫂は憮然とした表情だ。
櫂の女装も……見てみたかったかも。
金髪姿も見てみたかったかも……。
COOL BEAUTY……?
そう思っていると、櫂にじろりと睨まれた。
「神崎の白いフリフリとお似合いだね~!!」
"むふふふふ"そう笑う由香ちゃんの目は三日月形だ。
余計な一言を。