あひるの仔に天使の羽根を
突然のその訊き方に、驚いた僕は顔を上げた。
そこには――
芹霞が居たんだ。
煌の両腕に抱かれて、2人でじっと僕を見ている。
胸が、嫉妬に痛んだ。
煌と……付き合った…のかな。
櫂とは、どうなったのかな。
色々な想いが入り混ざるけれど、罪深い僕は芹霞から目をそらした。
「……ごめん」
それしか僕には言えなくて。
「煌、おろして」
「は!? だけどお前……」
「いいから!!!」
そんな声に訝って見てみれば、地面に下ろされた芹霞は、匍匐(ほふく)前進のような…奇妙な四つん這いで、真っ直ぐ僕の元まで歩み寄ってきた。
その鬼気たる様に少し怯んで……僕は仰け反った。
そして僕の足下に正座すると、僕に向かってちょいちょいと指を揺らす。
「あたし腰抜かしているの、玲くんのせいで。
だからここに座って」
強い語気のまま、芹霞は彼女の真向かいのスペースをばんばんと手で叩いた。
僕は唇を噛んでそれに従い……僕も正座した。
暫し流れる重い沈黙。
「玲くん。あたしは凄く怒っているの。凄く恐かったの。凄く凄くね!!!」
怒りに満ちた張り詰めた顔。
胸が……痛い。
「ねえ、玲くん。玲くんがあたしに言った事は、全部全部、櫂を元に戻したいが為の嘘だったの!?」
「……え?」
「あたしが恋愛慣れしていないことをいいことに、最初からあたしをからかうつもりで騙していたの!!?」
僕はぶんぶんと頭を横に振った。
心外だ。
僕の告白は、嘘でも偽りでもない。
"付き合う"
それに拘ったのは、本当に芹霞が好きだから。
もう――そんなことは言えないけれど。
「だったら……」
――バチーン!!!
僕の頬に張り手が飛んできた。
「これで許して上げる」
そう、にっこりと笑った。