あひるの仔に天使の羽根を
――やだあああああ!!!
怖かった。
正直言うと、今でも怖い。
生々しい感覚が肌に残っている。
玲くんはあたしとは違う"男"って言う存在だと思い知らされた。
だけどね、玲くんを嫌えるわけないでしょう。
あたし、昔から玲くん好きだもの。
あたし、昔から玲くん信頼しているもの。
優しい玲くんがあたしを傷つけるはずはない。
それなのに怖がってしまったあたしにだって非はある。
信じ切れなかったあたしも悪い。
玲くん、その顔でもう十分だよ。
だからごめんね、玲くん。
「これで許して上げる」
少しだけ、"傲慢女"でいさせてね。
あたしから離れていかないでね。
由香ちゃん達は、それを満足げに見届けると、玲くんに気づかれないように忍び足でいなくなった。
ああ、それに気づかないなんて、玲くんのダメージは相当大きかったらしい。
櫂が叩いた処をまた叩いちゃって、白い頬が更に赤く腫れ上がり、見るからに痛々しいけれど。
玲くんを離したくないという気持ちは、執着なのか恋愛感情なのか、やはりあたしにはよく判らない。
だけど。
煌のように、よりかけがえのない存在に思えている。
もし"付き合う"という事実だけで絆が一層強まったというのなら、あたしはその先に何が出てくるのか見てみたいんだ。
いいよね、まだ"お試し"期間なんだし。
期間はあと少しで終わるけれど、今度は少し…楽しく過ごせたらいいな。
"思惑"なんて抜きにして、もっともっと……純粋に玲くんと仲良くなれたらいいな。
こんな状況なら……無理なのかな。
だけど――
響いたのは玲くんの裏返った声。
「僕達まだ、付き合ってるの!!?」
正直――へこんだ。
"お試し"自体、玲くんの思惑の1材料だったのか。
櫂が戻れば、普通終わるよね。
そんなものだよね…。
そんなこと、気づかないあたしって馬鹿。
だけど――
「君が望むなら、いつまでも」
やっぱり何処までも、優しい玲くんで。