あひるの仔に天使の羽根を


緋狭姉の歩みはゆっくりだったけれど、やがて終着点は訪れる。


ひっそりと静まり返った各務の家。


教会のような厳かな雰囲気漂う建物。


「……ねえ、緋狭姉。1つ聞いてもいい?」


「何だ?」


「昔……久遠に会ったことある?」


「……何故?」


少し、声が堅いような気がしたのは気のせいだろうか。


「何かね、久遠と話していて懐かしく思って。あたし1人でこんな処に来れるわけないし…もし来たことがあるなら、緋狭姉も一緒だったかなって」



「……芹霞」



「ん?」



「まず風呂に入って、玲の痕を消せ。そんな姿では、誰も彼もが発情する」



「!!!」



「そして皆の処に来い。

話せることは、その時話してやる」



「話せないこともあるんだね?」



そう言うと、緋狭姉は声をたてて笑い、突如あたしの腰に、真上からごりと拳を入れた。


「い、いたっっ!!! 何するの!!!?」


「今のでもう歩けるようになったはずだ」


そう乱暴に下ろされれば――


「本当だ!!!」


何だろう、この人。


普通に優しくて、いつもの緋狭姉じゃない。


「お姉ちゃん……ありがとうね」


だったら、感謝の心も直ぐ口に出来る。


出来る時にしとかなきゃ、永遠出来ない気もするから。


「なあ……芹霞」


「ん?」


「私は……いつでもお前が可愛いよ?」


そんなことを真顔で呟かれたのは初めてで。


「あいつら以上に溺愛しているよ?

お前の幸せを願っている」


そう艶然と笑うと、照れてしまったあたしの頭をくしゃりと撫でた。


ありがとう。


あたしの自慢の、お姉さん。


大好きだよ?


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