あひるの仔に天使の羽根を
――ナンデコロシタノ?
その中にあった"あるモノ"で、私は動きを止めた。
そこにあったのは――
――サクラチャン。
怨念めいた目を向ける、芹霞さんの首で。
「あ……」
――ナゼコロシタノ?
全ての屍は、芹霞さんの顔になっていく。
「うああああああ!!!」
私をその地獄から強制帰還させたのは、頬の痛み。
「桜!!! 幻覚だ!!!」
緋狭様が私の頬を叩いて現実に還したのだと、判った時には…嫌な汗がこめかみから次々と滴り落ちて、地面に染みを作っていて。
苦しい。
気持ちが悪い。
私は俯せになって吐いてしまった。
「腹部の刺し傷は癒えたがな、お前……コレを体内に摂取したろう。しかも1度に大量」
ぽんと私の目の前に放られたのは、透明な液体が入っている小瓶で。
それを注射器に入れて腕に打ったことを思い出す。
「基本成分はモルヒネで、どんな痛みも瞬時で消し去るが、大量摂取すれば強い中毒症状が出現、薬を継続摂取しなければ精神崩壊を来す。名称はα-BR」
BR……まさか。
「そうだ"ブラッディローズ"。発案者は藤姫だ。元々は制裁者(アリス)用にと、藤姫直属のアオの命を受けて紫堂が開発していたものだがな。
――桜。薬が切れかけた今、私の結界は、蘇ったお前の痛みは中和することは出来ても、薬自体が持つ副作用……烈しい嘔吐と目眩は簡単には消し去れぬ。更に強力な幻覚幻聴が生じる。これからが…地獄だ」