あひるの仔に天使の羽根を
 
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私が緋狭様と共に各務に戻った時、まず目に入ったのは噴水の処にいる…玲様と芹霞さんと煌で。


震えて笑う芹霞さんに心痛めながらも、玲様の笑顔と馬鹿蜜柑の変わらぬ馬鹿げた嫉妬ぶりに、事態は上手く進んだことを悟った。


煌は。

櫂様の背を押し、そして事態のフォローに適役だった。


行くか戻るかしか出来ない単純馬鹿だけれど、その率直さで常闇を溶かす暁と為すことが出来る煌。それを無意識に簡単にやってのけるからこそ、真似できない私はいつも苛立つのだけれど。

私が出来るのは、せいぜい煌を説得して傍観者でいることだけだから。


――ねえ、桜。


死地に赴くような沈痛な表情をしていた玲様は、今は穏やかな色を浮かべ。

それでも時折見せるその翳り。


――僕はね、きっと……芹霞の真情も暴くだろう。


――追い詰められた芹霞が心から呼ぶ名が、僕の名前であればいいと……ははは。芹霞を苦しめる張本人が、誰の名前を呼ぶのかを判っているからこそ強行に出ようとしているこの僕が、一体何を言うんだろうね?


そう。


芹霞さんが櫂様の名前を呼ばせる為の玲様の行為は、芹霞さんが自覚していない…無意識領域からの心を引き出すということに他ならず。


言うなれば、芹霞さんの秘めた情がこれから表立ってくるわけで。


それでも、私達には櫂様という存在が必要で、結局今回、荷担した私達の誰もが、芹霞さんへの想いを犠牲にしたことになる。


そのツケがどう回ってくるのか判らない。


私ですら。


"男"の感情を一緒に刺し殺したはずなのに、消し去れない燻った感情の発露を思えば、決してこの先が平坦だとは思えない。


それでも思わずにいられない。


ねえ、芹霞さん。


少しでも長く、誰のものにもならないで欲しいと想い続けることは、赦して貰えますか?
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