音楽のある世界へ(仮題)
夏の日差しが容赦なく
照りつける
エアコンもなく
風通しの悪い部室は暑苦しい部屋に
西日が落ちようとしていた。
「渋谷へ行くか」
リョウが重い口を開いた。
セプクラのメンバーの溜まり場と
化しているのはJR渋谷駅から
徒歩五分の喫茶店「檸檬」である。
高校生が煙草を吸っていても
何も言うオトナはいないし、
長時間ねばることもできる
良心的な店だ。
それを良心的というかは
別の話しだけれど。
「檸檬」の店内は閑散としていた。
瞬は昨日、見知らぬ女性と
カップルで訪れた。
若干居心地の悪い空間。
ソファに腰掛けるなり、
「とりあえず、一週間以内になんとかして
一人部員を増やさないとダメだな」
と、誰ともなく言い放つ。
リョウは真夏でもホットコーヒーを
ブラックで飲む男だ。
暑苦しいことこの上ない。
「二年生の二学期から部活を始めようなんて
酔狂なやついるかね」
阿部ちゃんはいつもリアリストだ。
「とりあえず、入部してくれるだけで
いいんだけどな
まぁ、三年生たちもほとんど
ユーレイ部員だったもんねぇ」と
アイスコーヒーを口すする依子。
瞬は一人だけ上の空で
まったく別のことを考えていた。
もしかしたら
また中央公園に行けば
偶然会えるかもしれない。
いや、
それは偶然とは言えないか。