音楽のある世界へ(仮題)
「あっタバコ切れた」
依子の吸っているのは
比較的軽いメンソール。
「ボクのどうぞ」
と、阿部が差し出すマイルドセブンを
やんわりと拒否する。
「ここって、タバコ置いてたっけ」
「メンソールはなかったんじゃないかな」
リョウはさらに高タール高ニコチンの
セブンスターを吸っている。
「外で買って来なきゃだめかな」
最近は高校生もタバコが買いにくく
なっている時代である。
「外行くの?」
「暑いし、めんどくさいなぁ」
依子は笑って言う。
「マイセンで我慢しておきなよ」
阿部ちゃんはいつも依子にやさしい。
「そうだね」
とは言ったが、阿部の差し出すタバコには
手を出す気配はない。阿部のこうした気遣いを
依子はどこか避けているような気がする。
依子が重い腰を上げて席を立ったので、
「俺も買ってきて」と、ついでに
自分の分も頼む瞬。
「いいよ、マイセンでいいの?」
そのとき瞬は
昨日あったことを再び思い出した。
「いや、ペッテローズ」
「ペッテローズ?」