音楽のある世界へ(仮題)
18時頃まで一杯のコーヒーとタバコで
ダラダラと喫茶店で過ごしていた4人は
「楽器店に行く」というリョウの一言で
お開きになった。
それに付き合うという阿部を残し、
瞬と依子は渋谷の喧騒の中を
駅へと歩いた。
マルキューの地下から階段を下りると
若干だが、暑さがやわらいだ気はする。
依子とは帰りの電車が同じ田園都市線
なので、ふたりで渋谷のホームで
電車を待っているとき依子が
「ペッテローズって、なにさ」
と、突然聞いてきた。
「いや、フランスのタバコだよ」
いきなり意表をついた質問を切り出され、
なんて答えればいいのか戸惑う瞬。
「なんで、
突然そんなタバコが吸いたくなったわけ?」
瞬は心のどこかで昨日の体験を
自慢したい気持ちもあったのだが、
相手が依子では、当然しゃべる気には
ならなかった。
女として意識しているとか
そういうことではなく、そんな下卑た
自慢話しを聞かせることが恥ずかしかった。
「ん~、9月になって、心機一転
違うタバコに切り替えてみたくなったんだ」
などとありきたりの言い訳をする。
「ふ~ん」
なぜか見透かされているようで
女の勘の鋭さに心臓がキュンとなる。
こんなときは、依子がとても同級生には
思えないのだ。
買いに行ってもらったものの
結局ペッテローズというタバコは売っていなかった。
「シブチカのタバコ屋にならあるかもしれないってさ」
シブチカというのは渋谷の地下街である。
そこにはタバコの専門店が二軒ほどあるという。
タバコの専門店か。
だけど、そんな店で果たして高校生である
自分が購入できるのかは疑問だった。