その先へ
武道場に隣接した旧校舎の3階から僕を呼んでいる子がいる。


僕にはその子が誰かすぐに分かった。


(カノンだー…)


1、2年と同じクラスの

[カノン]

3年は2年からの持ち上がりなので実質的に3年間同じクラスである。
吹奏楽部に所属している彼女はいつも1人で朝練をしている。


3階にある吹奏楽部の教室を見上げると、そこには肩より少し伸びた髪を風でなびかせたカノンが笑顔で手を振っていた。

ただでさえ太陽に当たって眩しいのに、サラサラした茶色い髪が余計に輝いて見えるのはきっと僕だけであって、きっと彼女だからだろう。
僕は眩しそうな目をして誤魔化しながら彼女を見た。


「おはよう」

カノンはいつもと同じように明るく挨拶をした。


「おはよう」

僕もいつもと同じように挨拶をした。


「今日いつもより遅いね、電車乗り遅れたの?寝坊?」


彼女がそう聞いて来ると朝の出来事が瞬時に思い出されたが、悟られないように、

「そうだよ」

と言った。


彼女はしばらく僕をジッと見ると、

「じゃああとで下駄箱のとこね。しっかり朝練するんだよ。」

とまたいつもと同じセリフを言った。

「カノンもな」

僕も同じようにいつもと同じセリフを言うと武道場に入って行った。
< 5 / 86 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop