その先へ
―ガチャッ―


玄関を開けると居間の電気が付いているのが分かった。
母はまだ起きている。


「ハァー…」


思わずため息が漏れる。
その時、僕が帰って来たことに気付いた母が居間から出て来た。


「おかえり…」

「…ただいま…」


親子とは思えない程のギコちない会話に自分でも嫌気がさす。
僕はそのまま二階にある自分の部屋に行こうと階段に向かった。


「あっ…」


母が何か言いたそうに僕に話掛ける。僕は無言で母を見た。


「ご飯食べる?余ってるんだけど…」


僕の顔色を伺いながら話す母を見ていると、苛立ちと申し訳なさが何とも複雑に入り混じった感覚に襲われた。


「あんまりお腹空いてないけど…少しなら…」


僕がそう言うと、


「じゃあ急いで用意するから先にお風呂でも入って」


と笑顔を作り台所へと消えて行った。
思わず僕も嬉しさを隠しきれなかった。着替えを取りに部屋に向かう足取りが軽いのがそれを物語っていた。
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