その先へ
風呂から上がりダイニングに行くと、食卓に既に料理が並んでいた。

大好物のハンバーグが目についた時、母の優しい嘘に気付き嬉しさを覚えた。

母は今日僕と食卓を囲もうと待っていてくれたのだろう。


「いただきます」


聞こえないような小さな声で言ったはずなのに、


「はい、どうぞ」


母が嬉しそうに笑った顔を僕は見逃さなかった。

黙々と食べている僕の正面に母が座り話し掛けるタイミングを伺っているようにソワソワしている。


「最近どう?」

「別に…普通」


お互い何を話していいか分からない中、口を開いたのは母だった。そんな母に対して僕は何とも素っ気ない態度をとってしまった。


「部活頑張っているみたいね。アイが言ってたわ」

「アイ姉が?」


以前から両親と僕の関係を心配して間に入ろうとしてくれているアイ姉。

そんな優しさを頑なに拒んだのは僕であり両親であった。

そんな状況でもアイ姉はまだ諦めていなかったのだ。今更ながらアイ姉の家族への想いに気付く。
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