君想い。


折り畳み傘の中、二人だけの空間。


触れそうで触れないように距離を保つのは予想外に難しい。


傘に入りきれなかった左肩が雨に濡れる。


「紗季」


不意に呼ばれて雅人を見た。


「傘貸せ」


「は?」


「女に持たせたら男としてかっこつかねぇだろ」


そう言って雅人はあたしから傘を奪った。


「…ばか」


雅人のさりげない優しさに胸の奥からじわりと何かが溢れそうになった。

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