偽者お姫様
♯ 1
柔らかい陽の光が金糸の髪を照らす。気持ちの良いそよ風に金糸の髪はきらきらと煌めきながら揺れる。
花の香りが、庭園を、彼女を包んでいた。
「やあ、シンデレラ」
「ウィズさん!」
金糸とは反する、漆黒に染まった髪。人々から厭われる鮮やかな紅い瞳を見ても、彼女は恐れない。
「クロードは?」
「公務で出掛けています。たぶん、そろそろ帰ってくると思いますよ」
「そうか」
優しい笑みを浮かべるシンデレラ。その柔らかい笑顔に、何度救われたことだろう。
「クロードが王の座を譲り受けてから、もう二年経つのか」
穏やかな風が花びらを揺らす。
時が経つのは早いね――ぽつりと彼、魔法使いウィズは呟いた。
「クロードのおかげで、この国は変わった。庶民も奴隷も住みやすくなったと人々が嬉しそうに言っていたよ」
その言葉に、シンデレラも嬉しそうに微笑む。
「クロード様は本当に素晴らしい方です」
「……そうだね」
でもシンデレラ、君の方が、すごいんだよ。
かつて歪んでいた彼の心を、愛を恐れ、人々を嫌った彼を、君が救ったのだから。
「おやウィズ、来ていたのか」
その聞きなれた声に、シンデレラは満面の笑みを浮かべる。
「おかえりなさい、クロード様」
「ただいま、シンデレラ」
かつて冷酷だと言われていた彼、クロードが優しく微笑むのはもうおかしなことではない。
愛しそうに彼女の頭を撫でるその姿は、かつて歪んだ少年だったとは思えないほどだ。