偽者お姫様



「……そうですね」


すっ、と彼女は目を伏せた。
それは何かを思いだしているかのようで、けれど、何処か悲しそうな表情。

しばらくして、リオルは顔を上げ、


「私を、殺してほしい」

無表情で、そう言った。

その言葉に、思わずウィズは言葉を失う。


大切なものは、すべて失った。
もう奴隷として苦痛に耐える支えも、なくなった。
いっそ死んでしまって、奴隷という運命から、逃れることが出来たらいいのに。


「リオル……」

主の声に、彼女は我に返った。

「冗談です、主さま」


本当は、心から願っていることだけれど、

「奴隷に、願いなどありません」


私(奴隷)が何かを望むのなんて、許されないから。


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