偽者お姫様
「………」
貴族に囲まれ、そして今は庶民に囲まれているリオルは、なおもウィズを抱えたまま、ただ黙って立っていた。
「お嬢ちゃん、すごいね」
口を開いたのは、優しい顔つきをしている男性。
「私たちはずっと、何も言えなかった。その黒猫が貴族の者たちからヒドイ扱いをされているのを目にした時も、助ける事も出来ず、ただそれを見ているしかなかった」
庶民の願いを叶え続けた、魔法使い。
けれどその存在を知った貴族たちが、庶民から彼を奪い、独占した。
「魔法使いが貴族の願いを叶えているときの表情は、本当に悲しそうで、苦しそうだったよ。……でも私たちは、何も出来なかった」
苦しむ彼に、救いの手を伸ばすことすら、出来なかった。
「私たちが、悪いんだ」
男性がそう言うと、他の人々も悲しげに目を伏せる。
「一度だって、彼を助けることが出来なかった。過去でも……今でも」
あぁ、なんだ。
この人たちは気付いているんだ。
紅い瞳をした黒猫が、魔法使いだということを。