偽者お姫様
「許しておくれ、魔法使い」
黒猫をジッと見つめ、掠れた声で、そう言った。
ウィズはその紅い瞳を見開ける。
謝られるなんて、思いもしなかった。
〝どうして姿を消したんだ〟 と責められ、
そしてまた、「願いを叶えて」と言い寄って来るのだと思っていたから。
でも、僕は………僕は存在しない方がいいんだ。
人々の前に姿を現わしては、いけない。
この人たちも、貴族同様に心を穢してしまうかもしれない。
だから、僕は………。
刹那、リオルの腕の中にいたウィズが暴れはじめる。
「あ、主さっ……」
彼女の腕の中を抜けるや否や、黒猫は人々の足元をくぐり抜け、お城の方に向かって走って行く。
「ま、待って下さい!」
リオルの声は、彼の耳に届いていなかった。