偽者お姫様



彼女はそっとリオルの手を取る。

「中へ入りましょう。風邪をひいてしまいます」

そしてそのまま腕をひかれ、門をくぐって行く。
リオルはずっと、黙ったままだった。

扉が開かれ、二人はエントランスホールに足を踏み入れる。


「シンデレラ様、その方は?」

やって来た一人のメイドが、不思議そうにリオルを見つめる。

〝シンデレラ〟って……。

ウィズと出会ったあの日のことが、ふと蘇った。
僅かに目を見開け、何かに驚いていた、黒猫の姿。

( ――――シンデレ、ラ? )

そして呟かれた、その言葉。


「………」

あぁ、そういうことか。
助けてくれた理由(わけ)も、優しくしてくれる理由も、そういうことなんだ。

結局は、前と同じ。

私はまた、誰かと重ねられるためだけの、奴隷という存在。


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