偽者お姫様



「この方は門の所で雨に濡れていたので、風邪を引くと思って……あ、そういえばまだお名前を聞いていませんでした」

シンデレラはくるりとリオルの方へ体を向ける。

「あたしはシンデレラです」

ふわりと微笑む彼女を、リオルはただじっと見つめた。

自分は、こんな風に優しい表情をすることが出来ない。
前の主の奴隷になったときから、笑うということを奪われた。

この人は、私と全然違う。

なのにどうして、どことなく似ていると思ってしまうのだろう。

きっとこの人の心は澄んでる。そして、体も。
けれど私は、心も、体も……汚れてる。


「あの…?」

その声にハッとする。

「あ、S-……」

そう言いかけて、彼女は口を噤んだ。

今はもう、名前があるんだった。魔法使いに与えられた、名前が。

「リオル、です」

あぁ、でもどうして、主様は「シンデレラ」に似た名前を与えなかったのだろう。

その方が、彼女と私を重ねやすいというのに。



< 57 / 92 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop