偽者お姫様
「この方は門の所で雨に濡れていたので、風邪を引くと思って……あ、そういえばまだお名前を聞いていませんでした」
シンデレラはくるりとリオルの方へ体を向ける。
「あたしはシンデレラです」
ふわりと微笑む彼女を、リオルはただじっと見つめた。
自分は、こんな風に優しい表情をすることが出来ない。
前の主の奴隷になったときから、笑うということを奪われた。
この人は、私と全然違う。
なのにどうして、どことなく似ていると思ってしまうのだろう。
きっとこの人の心は澄んでる。そして、体も。
けれど私は、心も、体も……汚れてる。
「あの…?」
その声にハッとする。
「あ、S-……」
そう言いかけて、彼女は口を噤んだ。
今はもう、名前があるんだった。魔法使いに与えられた、名前が。
「リオル、です」
あぁ、でもどうして、主様は「シンデレラ」に似た名前を与えなかったのだろう。
その方が、彼女と私を重ねやすいというのに。