偽者お姫様



三人のいる部屋の扉が開かれる。
けれどシンデレラもリオルも、それに気づかなかった。


「……本当に、この国の奴隷制度は緩いのね」

俯いたリオルの口から、ぽつりと呟かれた。
シンデレラは黙ったまま、悲しそうな表情をする。


リオルは顔を上げる。
冷たい眼差しを、彼女に向けて、意味深に微笑んだ。

「―――あなたは、幸せな奴隷だわ。奴隷である悲しみも、憎しみも、虚しさも、どうせ何も知らない」

刹那、乾いた音が室内に小さく響いた。


「リオル、訂正するんだ!」

叫んだのは、ウィズ。

彼女はぶたれた頬に触れながら、俯いている。

「シンデレラの過去を、何も知らないのに――!」


はじめて見る魔法使いの怒りを露にしたその姿に、シンデレラは目を見開いていた。


「シンデレラ、彼女の言葉は気にしないでおくれ。さあ、部屋へ」


そう言って、彼はシンデレラの腕を引いて、その部屋から出て行く。
リオルから離れさせたかったのだろう。


静寂さが、部屋を包みこんだ。


< 69 / 92 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop