サヨナラのその日までそばにいさせて。
「咲希ー?何してるの?」
突然、玄関から声が聞こえ、ビクッとしてしまう。
「お母さんだ」
慌てて俺の腕の中から離れると、「何も言わずに出て来ちゃったんだ」と咲希は苦笑した。
「…そうか。ならはよ戻り」
「えっ、でも何か話があったんじゃ…」
「何もないよ。遅くに悪かった。また明日学校でな」
「…うん。おやすみ」
「おやすみ…」
優しく微笑み、足早にその場を去った。
やっぱり言えん。
あの時、邪魔が入って、一瞬ホッとした。
「意気地無しやな…、俺」
小さな星が輝く夜空を見上げ、白い息と共に呟いた。