ご主人様はお医者様
「少し話せる?」森先生はそういって、私を屋上まで連れてきた。
缶コーヒーを手渡されて、2人掛けのベンチに座った。
「この間から、小児科に移ったでしょ?もうくたくた。今日はNICUの当直明け」
森先生は、大きく背伸びをしながらそういった。
「及川さんも夜勤明け!?お疲れ――」
肝心の話をしないでニコニコと笑いかけてくる森先生。
私は痺れを切らしてこう切り出した。
「あの、妹って……」
「ああさくら?そう妹。先生が戻る大学の医局の教授ってのが僕の父親」
「だからお見合いの事知ってたんですね?もしかして、私のことを……」
「違うよ。君を好きだといったのは“妹の為に別れさせよう”とかそういうんじゃない」
言おうとしていたことを当てられて、私は口を噤んだ。