ご主人様はお医者様


高木先生は荒木先生の横、私の向かい側に座り、私と香澄に軽く頭を下げる。


先生は店員さんを呼んで、烏龍茶を注文した。



「高木、呑まないのか?
まさかお前、仕事に戻るつもりかよ」


「ああ」



荒木先生はやれやれとでも言うように肩を竦めた。



「せっかく出世前祝いしてやろうと思ったのにしけてんな」


「出世前祝い?」



高木先生は怪訝そうに聞き返す。



「大学の医局に戻るんだろ?
噂の見合相手は森教授の娘か?」



私は高木先生の顔をチラリとみた。



「ああ、事実だ」



先生は表情を変えずにそう答えた。



「実はその話しを学会で聞いてさ、なんで話してくれなかったんだよ〜水臭いな。
本当に出世街道まっしぐらだな」



上機嫌な荒木先生は、次々に質問を浴びせる。


お見合いの感想、好みの女か、いつ婚約するのか、指輪はもう用意したのか…………。



私は、グラスを握り締める。


もう……、




聞いていられないよ――…。





.
< 122 / 304 >

この作品をシェア

pagetop