ご主人様はお医者様


――夕方


申し送りの準備をしていると、先生たちの会話が耳に入ってくる。


「なあ、高木ーーっ、今日の当直代わって!!合コンなんだよ」


そう言い出したのは、荒木先生。


「いいだろ、いつも代わってくれるじゃん」


ちょっ!!

ダメ、

ダメに決まってるでしょ!!!!


そう叫びたくなるのを堪える私。




……と、隣でパソコンを打っているユキ先輩が私に耳打ちしてくる。


「荒木はさ、合コンがあるたびに高木先生に当直やオンコール押し付けてんだよねーー。高木先生は仕事中毒だからさーー、需要と供給のバランスが取れちゃってんじゃないの?」


「そんなっ、高木先生は働きすぎで死んじゃいますっ!!」


それに、今夜は早く帰るって約束したんだから!!





「ええーーっ、何でダメなんだよっ!!高木おまえ熱でもあるのかよ!!」


「すみません。今日は約束があるので」


「女か!!女でもできたのか――!!」



叫ぶ荒木先生と、ビックリした様子のユキ先輩。



「高木先生が断った!?今夜は雪でも降るんじゃない!?」



たとえ降るのが雪でも雹でも、


何でもいい…………。


先生が帰ってくるならそれでいい。


だって、


ご主人様のいない食卓や、時間や、あのマンションは、私にとって意味の無い物になってしまうから――――……。


先生に居て欲しい。


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