田舎の花~原爆を生き抜いたシイエ~
何時間歩いたのだろう

時津の丘を超えたあたりで風景は一変する

初五郎は息を飲んだ

兵役についている以上人の死ぬ姿は見慣れているつもりだった

しかし…

自分が知る空襲とは明らかに違うのだ

目玉が焼け落ちた馬が暴れあちこちにぶつかり

木々は立ち枯れたまま木炭になっている

犬が…猫が…そして人間が

川や畑…あちらこちらで息絶えごろごろと転がっている

家もなにもなく本当に焼け野原だった

生き残った人であろうか火傷で垂れ下がった皮膚を地につけぬよう肘を曲げ幽霊のように歩く人々があちらこちらにいる

まさにそこにあるのは地獄

初五郎はしばらく自分の目で見た現実を受け入れられずに呆然としていた
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