好きな気持ちが溢れて
「ここはいいからお前は厨房にいろよ」
いくら二年以上先に始めたからってまさか高校生にお前と言われるとは、俺も舐められたもんだな
とはいえ指摘された内容は正論だから渋々従う
「じゃあ、油交換しときますね」
ポテトとか色々揚げる油は揚げカスが溜まるから半日経つと交換することになってる
油の入った一斗缶を退けたら少しでも片付けやすくなるだろう配慮の気持ちを込めて呼びかけても返事は返ってこない
やっぱり何もしないのは暇だから言い出したってのがバレたかな
それとも本気の無視?
「草島さん、俺の名前わかりますか?」
「スネーク」
どうやら無視されてた方がマシだったかも
無事油交換を終えて腕やら腰やら回すとバキバキって音がした
一斗缶はやっぱり重いな
そう思うと同時に改めて平日混み具合のピークが過ぎたことを感じる
暇すぎて代わりに眠気がピークを迎える
たまに来店してもらっても飲み物だけの人が多くて余計なお世話ってわかっててもこのお店大丈夫かと心配になった
無意味にエプロンの紐を結び直すこと何回目か、自動ドアが開いて入ってきたのはお客様じゃなかった
「おはようございます」
特有の挨拶をするのは従業員同士ならでは
「優さん」
「おはよう、谷口くん」
草島さんと二人きりの今、ようやく張り詰めた沈黙を和らげてくれる人がやってきてくれた
それが長谷川優さんだ